歯周病の治療

歯周病とは?

歯肉(歯ぐき)の内側は外からは見えませんが、歯と、歯を支えている歯槽骨という顎の骨と、その両者を結びつけて支えている歯根膜線維からできています。歯周病を引き起こす細菌は、この歯根膜線維を破壊しながら、歯の根を伝って深く進行します。歯周病は、虫歯と違って歯の形が壊れていくのではなく、歯の周囲を支えている組織(特に歯槽骨)が壊れていく病気で、重度に進行すると歯がぐらぐらして、最後は抜歯に至ります。日本人の成人の8割の方がこの病気に罹っており、歯周病は生活習慣病といわれています。
歯周病は歯ぐきが腫れたり、出血したりするため、歯ぐきの病気と思われがちですが、これらはひとつの症状に過ぎず、歯を支えている「骨の病気」であることを認識することが大切です。

歯周病とは?

歯周病のメカニズム

ここで、歯周病が起こるメカニズムを勉強してみましょう。 まず、「プラーク(歯垢)」とは細菌の塊のことです。口の中には、1/1000gの中に1億を超える細菌が棲みついています。この細菌には、善玉の細菌と悪玉の細菌とがあります。

歯の表面では、唾液成分である糖タンパクが「ぺクリル」という薄い皮膜をつくります。
そしてこれをベースとして、細菌は食べ物の中からショ糖を使ってグリコカリックスというネバネバした物質で自分の家づくりを始め、屋根を作って家全体を覆いはじめます。
細菌たちにとって、棲みやすい場所ができたわけですから、悪玉の細菌が家の中へ多量に侵入して、増えていきます。これを「バイオフィルムプラーク」と呼んでいます。

バイオフィルムプラーク

この悪玉の細菌は、食べ物(栄養)や水も十分で温度は 37 ℃前後という環境を好みます。食後の口の中がまさにこの環境ですね。この環境下で、悪玉細菌が産生する毒素で歯ぐきを腫らし、血や膿を出したり、歯の周りの骨を溶かしたりします

バイオフィルムプラークは、外からの抗生剤や唾液中の抗菌成分の攻撃に対して膜をつくって薬が効かないようにしています。つまり、歯磨きの時には、このバイオフィルムを歯ブラシでお掃除する必要があるのです。歯ブラシや歯科医院での治療で物理的にバイオフィルムプラークを除去しない限り、炎症は見えないところで、どんどん進行していきます。

歯周病の進行ステージ

健康な歯肉

1. 健康な歯肉

歯肉に炎症のない状態です。
プラークが付着したままになると歯肉炎へと移行します。

歯肉炎

2. 歯肉炎 

歯垢が歯や歯肉にたまり、歯肉の表面が炎症を起こします。歯肉の炎症だけで、歯槽骨の吸収はありません
スケーリング(歯石やプラークの除去)やブラッシングで改善します。
小学生でも半数近くは歯肉炎の傾向があります。

歯周炎(軽度~中等度)
3. 歯周炎(軽度~中等度) 

細菌がポケットから侵入し歯肉の中まで破壊して、歯周炎が始まります。歯肉の炎症だけでなく、歯槽骨が吸収をはじめます。
スケーリングだけではなく、SRP(麻酔下での深部の清掃)や外科手術が必要になります。
成人の80%がここに含まれ、治療を行わない限り改善はしません。

歯周病(重度)

4. 歯周病(重度) 

歯はグラグラし、保存する事が困難になります。歯槽骨が徐々に溶け出し歯を支えられなくなり最後は歯が抜けてしまいます
ここまで放っておくと、歯槽骨の吸収が激しく、義歯では快適な生活を送ることができません。また、インプラントをする際にも制約がでてきます。

歯周病の検査

症状が出る前に

歯周病は、かなり進行してくると、歯肉から出血が現れたり、歯がグラグラしてきたりしますが、初期の段階では患者様自身に自覚できるような症状がほとんど出てきません。そのため、歯周病を早期に見つけるためには、歯科医療機関で検査を受ける必要があります。

プロービング検査

歯周病の早期から現れる症状の一つに、歯と歯肉との間に隙間ができる歯周ポケットという状態があります。歯周ポケットは、一般には深くなるほど歯周病の程度が進んでいると考えられ、歯肉の入り口から隙間の底の部分までの距離を測定して、重症度の判定に用います。

この距離を測定することをプロービング検査といい、歯周病の基本的な検査の一つとされています。測定には、目盛りのついたプローブ(探針、針状の金属製の器材)を歯と歯肉のすき間にそっと差し込みます。25g程度と、非常に軽い圧しか加えませんので、痛みはほとんどありません。

歯と歯肉の隙間は、歯周病のない健康な歯肉では1~2mm程度なのですが、歯周病にかかった歯肉では3mmを超えるような深さになり、重症の患者さんでは10mmを超えるほどプローブが入っていくこともあります。 

歯周ポケットの深さ
1)歯周ポケットの深さ

歯周病の進行度

0~3mm :正常、歯肉炎、軽度(P1)
4~6mm : 中等度歯周炎( P2)
7mm以上 : 重度歯周炎(P3)

 

プロービング時の出血
2)プロービング時の出血

ポケット測定後に出血部位の有無を調べます。BOPは歯周病のその時点での活動状況を示します。

BOPが顕著な場合には、歯周病は活動的で進行傾向にあると考えられます。

エックス線画像検査

エックス線画像検査歯槽骨の高さや範囲を正確に調べる

歯周病が進んでくると、歯を支えている歯槽骨が溶けてきますので、歯肉の下に隠れている歯槽骨の高さを調べることも必要になります。

歯槽骨の状態を調べるのに最も効果的な検査がエックス線検査です。エックス線検査は、歯槽骨の溶けてなくなった範囲や程度をかなり正確に知ることのできる検査です。エックス線検査は放射線被曝が気にかかるかと思いますが、歯のエックス線撮影の際の被爆量については、日常生活で自然界から浴びる1年分の自然放射線の数十から数百分の1程度とされています。

エックス線検査で評価される歯槽骨の喪失量は、歯周病によってすでに失われてしまった歯を支える骨の量を示すことになります。

動揺度検査

健常な歯は動きませんが、歯周疾患の進行に伴い、歯牙の動揺が生じます。
その動きの程度を調べることで、歯周疾患の進行度が分かります。

動揺度検査
動揺度検査

歯周病の治療

私たちは患者さんが歯周病という病気、そしてその治療法について納得、理解されるまで治療を行いません。なぜならコンプライアンス(遵守)という言葉がありますが、歯周病治療においてこれほど大切なことはないからです。正しい歯周病に対する認識を持って頂き、そして必要なホームケア(主に家でのブラッシング)を適切に行なって頂くことは、その患者さんの歯を残す上で絶対的に重要なことなのです。 “患者さんのホームケアが7割、我々の仕事は3割”と口すっぱく患者さんにプラークコントロールの重要性を説いています。

適切に磨いてくれない患者さん・磨く意思のない方は、歯科で治療しているだけでは決して改善は望めません。それは多くの研究により証明されており、歯科医院での歯石、バイオフィルム除去をいかに丁寧に行なっても、患者さんのプラークコントロールのレベルが低い場合や必要な定期検診を受診されない場合はすぐに歯周病の再発が見られるばかりか、以前の状況よりも悪くなってしまう場合も多く見られます

歯周病は普段、症状がほとんど見られないため、糖尿病や高血圧症などと同じくSilentdisease”と呼ばれ、患者さんが自覚していないことも多くあります。またそのために治療が終わったあとも、特に症状がないから大丈夫と思い込み、定期検診をおろそかにしてしまう方が多くおられます。歯周病治療は治るまでが治療ではなく、その後のメインテナンス治療も治療の一部であり、歯を残すために非常に重要であることをご理解頂き、私たちとともに歯周病を治していきましょう

お口の中 全体を考えた治療(包括的歯科治療)を

残念ながら、治療を始める前に包括的治療計画の立案と患者さんへのコンサルテーションとディスカッションをおろそかにしていると言わざるを得ない歯科医院も少なくありません。

悪い例を挙げますと、虫歯や被せ物の治療は全て終了してみて、さあ歯周病治療といったところで歯周病の状態をチェックしてみると多くの治療不能(Hopeless)な歯がある。そういった歯はいい加減に扱われて、ごまかしの治療をされているわけです。つまり最初から場合によっては抜歯、もしくは歯周病的観点からは残せるかどうか分からない(Questionable)ならば、先にそちらの治療を優先すべきです。そしてその歯が残るであろうことが確認できた後に前述の治療を行えば良い。

虫歯治療や審美歯科治療を含む被せ物の治療、修復治療は確かに重要なのですが、口の中の状態を全てチェックし、口腔機能の改善と口腔健康状態の回復を目指す、包括的な治療計画が全く立案されておらず、厳しい言葉ですが、行き当たりばったりの治療でお茶を濁していると言わざるを得ない歯科医院も少なくありません。

 

歯周病治療の流れ

検査から治療まで、診療の流れをご説明します。

①検査・診断
検査・診断

問診、口腔内写真、レントゲン写真、口腔内診査等により診断します。

②治療計画の相談
治療計画の相談

いくつかの治療計画を立案し、患者さんと治療計画について納得いくまで話し合います。

③歯周基本治療
歯周基本治療

ブラッシング指導、歯にこびりついている歯石やバイオフィルムの除去(デブライドメント)などを行います。

④再評価
再評価

基本治療後の歯周ポケットの深さと状態をチェックして、更なる治療が必要な場合は、今後の治療計画を患者さんと話し合います。

⑤再治療外科的歯周治療
再治療(非外科) 外科的歯周治療

残存した歯周ポケットの状況に応じて更なる歯周環境の改善を行います。場合によっては外科的な歯周治療も行います。

⑥メンテナンスへ
メンテナンスへ

残存する問題点が認められないことを確認し、補綴、修復治療(被せ物、審美的治療)が終了した後は定期的なメインテナンス治療へ移行します。

歯周病と全身の病気

~ 歯周ポケットから侵入した病原因子が全身を駆け巡る ~

歯周病が及ぼす全身への影響

歯周病の予防と治療の最大の目的は、歯が失われることを防ぎ、お口の機能を維持することです。一方、1990年代の後半以降、歯周病が全身の病気に影響を及ぼすことが明らかになり、全身の健康を守るためにもお口の健康が重要であると認識されるようになってきました。

近年、さまざまな研究結果から、歯周病原性細菌によって歯周組織に炎症が起き、深い歯周ポケットが形成されると、そこから生体内に侵入した細菌そのものや細菌由来の病原因子に加え炎症の場で作られる物質(炎症性サイトカイン)が歯肉の血管を通じて血液に流れ込むことで、心臓疾患、肺炎、糖尿病、出産など全身の病気のリスク因子になると考えられています。

歯周病が及ぼす全身への影響

冠状動脈性心疾患

心臓に血液を供給する冠状動脈で血液の流れが悪くなり、心臓に障害が起こる病気の総称を「冠状動脈性心疾患」と呼びます。中でも、心筋梗塞や狭心症の虚血性心疾患は、心臓の冠状動脈にアテローム性プラーク(血管沈着物)が形成され閉塞されていくことで生じる病気です。血管内に侵入した歯周病原性細菌やその病原因子などが、血流に乗って冠状動脈に達するとアテローム形成が加速化。その結果、心血管の病気が発症しやすくなります。歯周病に罹患していると、心血管疾患の発症リスクは1.15〜1.24倍高まると言われています。

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎気管に入った唾液中の細菌などが肺に感染して起こる肺炎が「誤嚥性肺炎」。高齢者に多く見られる病気の一つです。特に、要介護の高齢者などは飲み込む力や咳反射が低下しているため、唾液やプラークなどが気管に入りやすく誤嚥を起こします。
そのように入り込んだ歯周病原性細菌などのお口の中の細菌が肺炎を起こしやすくすると考えられています。実際、この病気の多くの患者さんから歯周病原性細菌が見つかっているのです。そのため、高齢者に口腔ケアを行い、歯周病原性細菌等の口内細菌が減少すると肺炎の発症率が下がることが報告されています。

糖尿病

糖尿病の推定患者数は約700万人と言われていますが、「糖尿病」には網膜症・腎症・神経障害・末梢血管障害・大血管障害などの合併症があり、歯周病はこれらに続く第6の合併症と捉えられており、糖尿病患者さんの多くに重度の歯周炎が見られます。それだけではありません。この二つの病はお互いを悪化させていくという恐怖のスパイラルを作るのです。

ではなぜ、お互いを悪化させてしまうのでしょうか?

ポイントは「TNF-α と インスリンの関係」です。

歯周ポケットに歯周病菌が溜まってしまうと、免疫細胞である白血球が菌を退治しに集まってきます。この時、白血球が歯周病菌の出す毒素に触れることでTNFと呼ばれる物質を放出します。

歯周病が糖尿病を引きおこすメカニズム

そしてこのTNF-aには何と血液中のインスリンの働きを妨げてしまう作用があるのです。つまり歯周病でTNF-aを多く放出している場合、インスリンの働きが低下し糖尿病が一気に進行してしまうことがあります。そして糖尿病が進行すると当然、血糖値が高くなります。そうなると今度は歯ぐきの毛細血管の血流が悪化、血液が行き渡らず歯周病菌を退治できなくなってしまうのです。

こうして歯周病による歯ぐきの炎症が悪化するつれて、さらにTNF-aが多く放出され糖尿病もますます悪化してしまいます。

一方、糖尿病患者の歯周病を治療することで血糖コントロールが改善し、重症度の指標である血中HbA1c濃度が0.5~1%低下するとの報告があります。これは歯周組織から分泌されるがTNF-aが抑制されて、インスリン抵抗性が改善されるためと考えられています。

ホームケアも含めた歯周病の治療で、「糖尿病」と網膜症・腎症・神経障害・末梢血管障害・大血管障害などの合併症のリスクが下がるということは、費用対効果の点でとても大きなメリットがあると言えるのではないでしょうか。

 

歯周ポケットに歯周病菌が溜まってしまうと、免疫細胞である白血球が菌を退治しに集まってきます。この時、白血球が歯周病菌の出す毒素に触れることでTNFと呼ばれる物質を放出します。

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