医療雑誌インタビュー
医療経営雑誌からのインタビュー依頼
下記のメールを頂戴したのがきっかけで、インタビューいただき、当院院長の雑誌インタビュー記事が掲載されました。
お忙しいところ恐れ入ります。
株式会社TKC出版の〇〇と申します。
この度はインタビュー取材企画の件でご連絡させていただきました。
TKC全国会・TKC医業・会計システム研究会では、病院・診療所の経営改善と開業医の支援活動の一環として、月刊誌「TKC医業経営情報」を発行しております。本誌2月号では、「痛みを和らげる「仕掛け」と共感的理解で 歯科への意識・行動変容を促す」をテーマに、中川昌基先生のインタビューを企画させていただきました。お忙しいところ誠に恐れ入りますが取材へのご検討をどうぞよろしくお願い申し上げます。
詳細につきましては下記をご参照ください。
ちなみに、当研究会は、TKC全国会(全国1万名超の税理士・公認会計士のネットワーク)の中で、病医院の会計・税務に精通した約1,700名の会員により構成し、現在、全国約2万件の病院・診療所の健全経営を積極的に支援しています。(当研究会の詳細につきましては、ホームページをご参照ください。)
■発行部数
約7,000部
■読者対象
税理士、公認会計士、医師、事務長、その他医業経営関係者
雑誌インタビュー記事
インタビューいただき、下記記事が雑誌掲載されました。医療経営の専門雑誌のめ、一般患者様向きでない内容もありますが、当院の成り立ち・コンセプト・特徴・課題などについて、ご参考になりますと幸いです。
下記に、文面を掲載(+画像追加)しておりますので、よろしければご参照ください。
痛みを和らげる「仕掛け」と共感的理解で 歯科への意識・行動変容を促す
茨城県桜川市にある山王歯科は「痛みへの配慮」について細かいところまで徹底し、患者満足度の高い治療を特 徴とする。
認定心理士の資格を持つ中川昌基院長は、心理学の観点から患者の症状だけではなく来院の背景まで 汲み取り、患者へのアプローチを行い、治療計画に生かしている。
疼痛閾値(とうつういきち)を上げて痛みを和らげる治療、患者の 物語に寄り添った治療などについて、話をうかがった。
日常的に行うことができる 医科歯科連携
──早速ですが貴院の概要について教えてください。
中川 当院はもともと桜川市内にある山王病院という 昔ながらの医科の病院の1診療科だったのですが、桜 川市と隣の筑西市による病院再編にともない、医科が 医療法人隆仁会を指定管理者とする「さくらがわ地域 医療センター」として新設され、当院は医科から分離 独立する形で、医療センターの隣に開院しました。
常勤医師は私1人で、非常勤医師が3人、歯科衛生士 が6人、事務が4人と計14人の体制で運営しておりま す。来院患者数は1日あたり50人~ 60人ほどで、近隣 市町村の患者さんがほとんどですが、車で1時間以上 かかる地域から来られる患者さんもいらっしゃいま す。
──医科から分離独立ということでしたが、現在も同 じ法人グループということでしょうか。
中川 現在も医療法人隆仁会のグループで運営してお ります。もともと同じ病院内にありましたので、さく らがわ地域医療センターのスタッフとは顔見知りであ り、開院当初から医科歯科連携が図られていました。 主に、医療センターの入院患者の歯科的な問題に対 する往診依頼に対応したり、耳鼻科や皮膚科等から当 院を紹介してもらっています。
また、歯科感染症等で 入院が必要と判断した場合は、当院から医療センター へ入院の依頼を行い、CTやMRI、点滴等を行ってい ます。お互いが顔見知りであるからこそ、日常的に相 互で紹介、問い合わせできることは当院にとっての強 みでもあります。
──貴院では、野立て看板を多く設置していることも 特徴的ですね。
中川 これは私がさまざまな広告・看板戦略で有名な 歯科に勤めていたときに野立て看板の効果を実感した からです。看板もキャラクターを使用して、アイ キャッチを意識しています。「日常的に看板を目にし ていると、歯科なら当院が自然と頭に浮かび、ホーム ページで確認して来院」という広告戦略で新患を獲得。
また、ホームページも私自身で編集・更新をしており、 業者に依頼するのではなく、院長自ら作成すること で、患者さんへのメッセージをダイレクトに伝えるこ とができると思っております。
人口減少が進んでいるなかで、経営を継続させるた めには、診療の商圏を拡大し、新患を多く獲得するこ とが求められます。そのためにも広告戦略はクリニッ ク運営において重要な要素の1つであると考えていま す。
疼痛閾値を上げて 痛みを和らげる治療を実現
──先生は認定心理士の資格を取得されていますが、 診療においてどのように生かされていますか。
中川 私は歯学部に入学する前に、早稲田大学で心理 学を学び、認定心理士の資格を取得しました。カウン セリングの学習をしていたので、患者さんの理解やコ ミュニケーションに関しては自然と生かされていま す。 まず患者さんにどうアプローチするか。客観的な データ、サイエンスとしての医学を重視するあまり、 検査で異常がなければ病気と考えず、患者の悩みや苦 しみが癒されないことがあります。病気の背景や人間 関係を理解し、固有の価値観を持った患者さん1人ひ とりの物語に耳を傾けて、全人的にアプローチするよ うに心がけています。
たとえば、治療計画を立てると きには、4月に子どもの入学式があるからそれまでに 治したい、妊娠出産があるから治したいなど、 既往歴以外の部分もなるべくヒアリング してゴールを設定する。患者さんを 「点」で見るのではなく、「線」でとら えて、物語に沿うような形で治療計 画を立てています。
また歯周病に関しては生活習慣病 であり、歯科で行う歯石除去だけでの 予防には限界があります。患者さん自身 で行う日々の歯間ブラシなどのセルフケ アが必要となり、習慣化のための行動変 容が求められます。
行動変容を促すことにも、心理学 の知識が直接・間接に使えていて、「オペラント条件 付け」(行動主義心理学の基本的理論)と呼ばれる報酬 と罰をタイミングよく与え自発的に適切な行動をとる ように導く方法があります。これはシンプルな話で、 正の評価と負の評価をきっちりやるかどうか。
具体的 にいうと歯ブラシだけだと難しい場合に、普段使わな い歯間ブラシを使ったら気持ちを込めて褒めます。正 のことをしたらとにかく褒めて、できていなかったら 大人でも負の評価をし、宿題を出して次回までには やってきてくださいと指示します。患者さんによって は1年ほどかかることがありますが、行動変容を促す ことは重要なので、継続して褒める、宿題を出すことを繰り返しています。
──患者さんを理解することや、行動変容を促すこと に、心理学の知識や経験が役立っているのですね。
中川 患者さんは、過去の経験や不安から、歯科は恐 いというイメージがあるものです。そのイメージを変 える。行動を変容させるという取り組みも日常的に 行っています。 “疼痛閾値”という言葉があり、簡単に いうと痛みの感じやすさですが、患者 さんが歯科は嫌なところ、痛いことを されるところと思っていたら、身体 がびくびくし、疼痛閾値が下がり、痛 みを感じやすい状態になります。その 状態から力を抜き、リラックスさせて、 患者さんの感覚を和らげると疼痛閾値は 上がります。
同じ刺激でも疼痛閾値が上がっていた ら痛いと思わない。痛みを和らげる場合、細い針を使 用するなど、物理的・生物学的なアプローチで和らげ ることももちろん重要で当院でも日常的に行っていま すが、たとえば「歯科治療が怖いので笑気麻酔を使い たい」という患者様に、すぐに笑気をつかうことはあ りません。
なるべくオプションの笑気などの機器には 頼らずに歯科治療ができるように、なぜ恐怖を覚えた のか、そこからアプロ―チをして疼痛閾値を上げる。 患者さんが機器に頼ってしまわないように、設備を前 面に出さず、患者さんの歯科へのイメージ変容を促す ことから始めています。
たとえば、緊張で疼痛閾値が 下がっていて、麻酔を何本打っても効きにくい患者さ んも、リラックスして疼痛閾値が上がっていれば1本の麻酔で済みます。
痛みへの配慮と同時に、歯科が恐 いというイメージを変えることは患者さん本人にとっ て、とてもメリットがあるのです。 また当院はユニットからガラス張りで外の景色が見 られるようにしており、この開放感は疼痛閾値を上げ るような造りになっています。
──建物設計段階から疼痛閾値を上げることを意識さ れていたのですね。
中川 そうですね。建てる際のコンセプトは2つあり、 1つは「日本一眺めがいい歯医者」です。当院がある場 所はもともと何もないところで、開院時の診療圏調査 や売上予測を行った際には、開院には適さない場所で した。しかし、ピンチはチャンスと発想を転換して、 何もない原野でも、他では見られない里山の自然があ る。地元の人からすると日々見慣れていて何も感じな い里山の自然でも、診療台から一面パノラマで眺望で きるようにすることで「価値」を生み出します。
診療室からの里山・大自然の景色を見た患者さんは、 自然とリラックスができ疼痛閾値が上がった状態から 歯科治療が開始できる点は、他院にない強みです。ま た、四季折々、季節ごとに違う景色が見られることで、 歯科への通院が楽しみになり、患者さんの定期受診・ 行動変容にもつながっています。
もう1つは「日本一労働生産性の高い歯医者」です。 当院は受付から診療室まですべてワンフロアで設計さ れています。振り向けば誰がどこで何をしているのか がわかるので、スタッフ同士がすぐ助け合うことがで きます。これがスタッフの労働生産性を高めているの です。
結果的に、患者さんの待ち時間を短縮すること につながり、患者満足度を向上させる要因の1つと なっています。 この2つをコンセプトとして定め、建物としても グッドデザイン賞をはじめ、多くの賞を受賞すること ができました。
──建物のコンセプトがしっかりと現場に生きて、ス タッフの生産性が上がり患者満足度にもつながってい るということですね。
中川 待ち時間が短いことと、治療期間が短いことが 患者満足度向上に直結すると考えています。もちろん ドクターの対応レベルや技術レベルもありますが、こ れは日々研鑽して当たり前のことです。組織としてい かに対応できるかがポイントで、スタッフの動きを可 視化して、効率化を図る。結果的にスタッフの生産性の 向上につながり、待ち時間を短縮することができます。
また、患者さんへの情報提供も重要で、口頭で説明 するだけでなく、タブレットを使い、動画などを見せ ることによって視覚に訴えて患者さんにイメージをき ちんと持たせるようにしています。
ここを丁寧にする ことによって、患者さんが治療を中断してしまう事態 を防ぎ、結果的に治療期間の短縮にもつながり、満足 度向上にもつながります。
女性スタッフが働きやすい 働き方改革を実行する
──現在の課題についてはどのように考えていますか。
中川 課題としてはスタッフの雇用の確保です。応募 して面接に来られる人は多かったのですが、当院は平 日19時まで、土日も診療という体制なので、この基準 に合わない人はお断りしていました。
しかし、新型コ ロナの影響もありスタッフが2人退職することにな り、残ったスタッフの負担が増える結果となってしま いました。 このままでは残ったスタッフにも影響が出る恐れが ある。ただこれもピンチはチャンスで、これからを見 据えて柔軟な雇用形態にすることができるよい機会と 考え、現在働き方改革に取り組んでいます。
──具体的にはどのような改革に乗り出したのでしょ うか。
中川 女性のライフサイクルにいかに寄り添えるかを 考えています。結婚、出産、子育てなどの理由での離 職を防ぐため、産前・産後休暇、育児休暇がしっかり とれる体制にして、託児所を利用した早期復職を可能としました。
また、子育て期間中は時短勤務を取り入 れて、徐々に勤務時間を増やしていくなど、多様な働 き方に対応できるような勤務体制となっています。 当院は日曜診療を行っていますが、患者さんからす ると日曜に診療ができることは喜ばれる、患者さんの ニーズに応えることができます。
しかし、スタッフか らすると日曜日は休みたい、家族と過ごしたいなどス タッフのニーズには応えることができません。この両 者のニーズの調整が難しいところで、現在も試行錯誤 で取り組んでいるところです。
まずは、診療時間を9時から17時までだったのを14 時までに繰り上げて、スタッフが少しでも早く帰れる ようにしました。日曜診療をやめるわけではないの で、患者のニーズは応えられると。
平日の仕事終わり に来る患者さんと違って、日曜日の患者さんは融通が 利きやすく、診療時間を繰り上げても患者側の不便は 少ないと考えています。
あとは、平日午前の診療終了時刻を12時から13時 30分に延長する変更を1月から実施します。午前を少 しでも長くすることで、勤務する午前のみの衛生士を 有効活用することができます。その分、午後は短くな りますが、午後のスタッフの負担軽減 となります。 このように少しのことでも細かい調整を行いまし た。今まで午前中のみの勤務や、曜日指定の勤務は認 めていませんでしたが、それを許可したら早速パート 2人を雇用することができました。2人とも将来的には 雇用時間を増やして正社員ということで考えているの で、働き方改革を行った成果が出ていると感じており ます。
──改革を行う前から医師が4名とスタッフは多い印 象がありますが、医師や歯科衛生士が多い効果として どのようなことが挙げられますか。
中川 私を含めて医師には得意分野があり、連携して 医療サービスが提供できます。私の専門はインプラン ト治療と再生治療ですが、障害者歯科認定医、口腔外 科認定医など医師それぞれが得意分野を持っており、 連携した医療提供が可能になっています。
また、歯科衛生士も6人いて、勤続30年にもなる大 ベテランから、新卒でまだ数年の人などさまざまで す。人数が多いことで、お互いが助け合えることや、 経験の浅い新卒の人がベテランの先輩に教えてもらう など、教育の面においても効果的です。
今後は訪問診療体制を構築し 地域における役割を果たす
──現在、力を入れていることはありますか。
中川 現在、ICT化を積極的に進めています。今まで 電話を受けて紙台帳で予約を管理していましたが、予 約システムを導入し、ホームページ上で希望日に予約 を入れることができるようにしました。その結果、ス タッフの負担を軽減することができました。
また、内部管理のシステムも、「LINE WORKS」とい うシステムを導入したことで、今まで紙で申し送りし ていたことが、クラウドでスタッフ全員と共有できる ようになり、「これはあの人に聞かないとわからない」 「あの人が辞めたらもう何もわからない」などの状況 を改善し、スタッフの作業効率向上にもつながってい ます。
──最後に今後のクリニックの展望についてお聞かせ ください。
中川 現状は医療センターからの依頼で、入院患者さ ん限定に往診を行っていますが、より有機的・効果的 にシナジーを生むための連携がまだまだできていませ ん。
今後は同じグループの医療センターの入院患者へ の日常的な口腔ケア診療、また訪問看護ステーション と連携し、地域に出向き日常的な口腔ケアができる訪 問歯科診療体制を構築していきたいと考えておりま す。桜川市に限らず、今後人口減少、高齢化が予想さ れます。地域で取り残される患者さんがいないよう、 医療提供体制を強化するには、人材確保の取り組みが 今後ますます重要性を増すと考えています。 (2021年12月21日/本誌編集部 宮田 光)