正常性バイアスとは?~誰もが「自分だけは大丈夫」と信じている~

「正常性バイアス」とは心理学で使われる用語で、人が予期しない事態に直面したとき、「ありえない」という先入観や思い込み(バイアス)が働き、起きていることを正常な範囲内だと自動的に考えてしまう、心の働きのことをいいます。

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非常時には「まさかこんなことが起こるわけない」と捉えたり、目の前で起きていることは「これは現実ではなくヴァーチャルではないか」と考えてしまう傾向のため、認知バイアス(偏見による認識のゆがみ)が働き、現実を受け入れられない状態に陥いり、思い込みによって頭が非常事態であるという認識に切り替わらない状況に陥ることをいいます。

 

地震や津波、火災、洪水など、経験したことのない事態におそわれたとき、非常事態であるにもかかわらず、心の防衛機能(=正常性バイアス)によってその認識が妨げられ「自分に大きな危険がふりかかるわけがない」「まだ誰も逃げていないから大丈夫」と思い込んでしまい、正常な判断や身を守るための行動ができなくなり、避難行動が遅れてしまう現状があるのです。

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正常性バイアスにより被害が拡大した事例~東日本大震災~

2011年3月に発生した東日本大震災では、15,000人を超える人が亡くなり、そのほとんどが津波による犠牲者となっています。地震が起きてから大津波が到達するまでには約1時間あり、津波から避難するには十分な時間であったと考えられます。しかし、「自分の住む町には高い堤防があるから逃げなくてもいいだろう」「自分の家はハザードマップでは安全なところだから大丈夫」と考えていた人たちもいました。そのような思い込みの結果、津波避難の警報が出ても避難しない人が多く、実際に津波を目撃してから初めて避難行動に移り、避難が遅れたことにより多数の犠牲者がでてしまいました。

正常性バイアスを打ち破った「釜石の奇跡」の事例

一方、正常性バイアスを打ち破り、多くの命を救った「釜石の奇跡」。ご存じの方も多いと思いますが、岩手県釜石市 釜石東中学校での出来事です。東日本大震災の起きた直後、学校では生徒が「津波がくるぞ!逃げろ!」と大声で叫びながら「避難先に指定されていたグループホーム」へ避難を始めました。しかし、迫りくる津波の様子を見た生徒たちが、「ここにいても危険だ」と先生に訴え、さらに高台の施設を目指して避難をすることとなります。避難の途中、その様子を見た近くの住民もつられて、高台に避難を開始します。そして、全員が高台についた、その30秒後に3メートルの高さを超える津波が施設の目前まで迫りました。

これは、学生が「あらかじめ定められた避難場所が安全である」という、正常性バイアスにとらわれず、冷静に状況を判断して、さらに安全な場所に避難を続けたことが一つ目の教訓です。そして、その学生の行動を見た人に伝わり、皆がつられて行動をしたことで、さらにたくさんの人の命を救いました。

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『羊飼いと狼』

イソップ物語の「羊飼いと狼」のお話でも、羊飼いの少年に何度も「狼が来た」と言われて惑わされた村人は、いつしか「またか」と対応しなくなり、ついには本当の非常事態だということがわからなくなって、羊は狼に食べられてしまいます。物語の本来の目的は「うそをついてはいけない」ことを子どもに伝える童話なのですが、裏を返せば、村人の「正常性バイアス」の働きをうまく突いた、“戒め”のように聞こえなくもありません。

Illustration of a Shepherd and his dog protecting sheep attacked by wolf

新型コロナウイルス感染拡大と正常性バイアス

今回の新型コロナ感染拡大も、この「正常性バイアス」による危機感の欠如というものが招いたともいえるかもしれません。ニュースで感染拡大を知らされるものの、「自分は大丈夫」「自分には関係ない」「まさか自分は感染しない」「まだ大丈夫」と思い、「3密」の行動をとってしまう。自分にとって都合の悪い情報を過小評価してしまった結果が現状であるという認識をもっておいたほうがよいのかもしれません。

 

しかし,「正常性バイアス」そのものが悪いというではなく、「正常性バイアス」は 人間にとって心のバランスをとるために必要なもので,災害時などに悪い方向へ働く傾向があるという人間の心理状況の「くせ」があるというだけの話です。

「想像力」で正常性バイアスに打ち勝つ

「正常性バイアス」が悪い方向へ働いてしまうのを防ぐために必要なのは,「訓練」と「想像力」です。 火災や地震などの自然災害に関しては,やはり日頃から「訓練」をしておくことで非常時にも状況 を正確に把握し,きちんと動けるようになります。

新型コロナウイルスの感染に関しては,「訓練」 というよりも「想像力」の問題です。「この状況で,感染対策をせずに大勢で会食したり、のんきに遠くに旅行したり、職場でお昼休みにマスクを外して歓談していたら感染する可能性が飛躍的に高まる」「自分が感染したら・・・・」という、あたりまえの「想像力」を働かせることがとても大切です。

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同調バイアス

「同調バイアス」という言葉もあります。これは「周りの人と同じ行動をとる」ことが安全と考える心の働きです。特に,日本人はこの働きが強いのかもしれません。本来であれば迷うことなく逃げ るべき状況でも「周りの人が逃げない」から「自分も逃げない」という選択をする人が圧倒的に多 いとされています。例えば、火災で煙が充満しているのに「周りの人が逃げない」からとおとなしくその場で待機し, 結果的に死者が増えてしまうというケースもあります。

 

新型コロナウイルスの感染拡大も、一部の人が娯楽施設に集まったり,旅行に行ったりして「みんながしているから大丈夫」という「同調性バイアス」が働いた結果であるのかもしれません。災害時には「正常性バイアス」と「同調性バイアス」によって正常な判断ができなくなってしま うというケースがとても多いといわれています。 ただし、「正常性バイアス」と同じように,「同調バイアス」もそのものが悪いというわけではありま せん。現に「同調性バイアス」は,災害など非常時に一致団結して助け合うということにもつながります。

 

ここでも「想像力」が求められると思うので,日頃から「想像力」をしっかりと働か せて「同調性バイアス」で悪い方向へと進まないようにしていきたいですね。

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「自分が感染した」とリアルに想像・シュミレーションしてみる

自分や家族に感染者が出た場合どうなるかを、一度ゆっくりと頭のなかでリアルにシュミレーションしてみましょう。感染した場合、保健所と相談の上、症状により「自宅待機」「施設入所」「病院入院」いずれかになります。

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もちろん症状が悪化して入院が長引くことや、最悪「命の危険」もあります。同居家族は、たいてい全員即座に濃厚接触者となり、自宅待機が求められます。PCR検査の結果、同居家族がさらに陽性となると・・・と感染の連鎖が止まりません(クラスター化)。また、感染確認前後の「行動調査」が行われます。3密の行動状況はなかったか、濃厚接触者はいるかヒアリングがあります。濃厚接触者には連絡が行き、PCR検査や自宅待機等の対応がとられます。当然、自分や家族、濃厚接触者は、仕事や学校は行けず、職場の同僚等にも多数の濃厚接触者がいる場合は、職場がストップしてしまい、収入が途絶えることだってあるでしょう。大切な家族たちとの普段の日常も一瞬で奪われますし、家族も濃厚接触者・感染者となり、家族の仕事や学校・仲間にも迷惑がかかる恐れも十分にあります。

 

こういった事態を、「自分にはまずおこらない」「周囲もそこまで考えていない」と思ってはいけません。そう感じたのなら「正常性バイアス」「同調バイアス」にとらわれています。感染者のほとんどは、感染の事実を知らされたとき、「まさか自分が本当に感染するとは」と思うのです。

もちろん、十分感染対策を行っていても、感染してしまうことはあるでしょう。しかし、「想像力」を働かせてこういったシュミレーションを事前に行い、基本的な感染対策とともに、3密となる場面を知恵と工夫で回避した上の感染と、無策に「正常性バイアス」「同調バイアス」にとらわれたまま感染した場合とでは、その意味合いが大きく異なります。

 

事前にシュミレーションした場合、誰かが感染しても、感染拡大させないためには、「同居家族以外は濃厚接触者とならない」行動が大切と理解できるでしょう。

 

濃厚接触者の定義」はご存じでしょうか?「1m以内」で「マスクなし」で「15 分以上会話」した相手が、「2 日以内」にコロナの症状を示したら、あなたも濃厚接触者となります。 現時点で、同居家族以外であなたの濃厚接触者は何人いらっしゃいますか?最近の自身の行動を振り返り、改めて一度何人の濃厚接触者がいるか確認してみましょう。あなたの濃厚接触者は、現時点・感染する前でもカウント可能なのです。

逆にいうと、感染しても、上記定義にあてはまる人が同居家族以外いないなら、(最終的には保健所の判断ですが)濃厚接触者ではないので、職場の同僚やその家庭等々まで広範囲に及ぶ、感染の連鎖は最小限となります。

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感染者発生の際、職場や学校等の仲間、その家族等々を一気に道ずれにしないために、保健所に「これだけ対策をとっていたので、同居家族以外は濃厚接触者ではありません」と胸を張って主張できるだけの対策・行動をみんなで協力して行いましょう。

 

特に病院や工場など、職種にかかわらず「職場の昼休み」に多くのクラスターが出ている事実があります。リラックスして、食事中マスクを外して狭い空間で談笑する。あえて夜にアルコールを伴う会食をせずとも、「3密」の空間で同居家族以外が濃厚接触者となってしまう環境です。「想像力」を働かせて、知恵と工夫で同居家族以外では「絶対にお互い濃厚接触者とならない」意識・行動の徹底を行うことが、感染者が出ても、自分・家族・患者・職場・地域医療を救うために今できる最も有効な手段です。

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心の非常スイッチをオンにするためには?

各種バイアスの影響で人間はなかなか心の非常スイッチが入らない状態に陥りやすいという性質を持っています。まずそうした人間の心のメカニズムを知り、それを克服するためには、「想像力」を養い、勇気を出して率先行動をとること。「危機事態におけるリーダーシップ」が重要だと考えます。

正しい知識を身に着け、「空振りでも構わない」という心がまえで、災害(新型コロナ感染拡大)が起こったらいち早く避難行動(徹底した感染対策)を起こしましょう。その危機感がまわりの人にも伝わり、被害を小さくすることが出来るのです。被害の拡大を防ぐには想像力と勇気ある正しい行動あるのみです!

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